20世紀の芸術家たちがアフリカに憧れてきた理由が、アフリカの人々が変わらず持ち続けた「原始」が実は文明の始まりなどではなく、その最終形を表しているものだったからではないか、と感じてしまう。その証拠にムパタの作品に存在する色彩と描写の洗練度はその点で世界的にも評価の高い日本の浮世絵にも匹敵するものであるし、特に背景のグラデーションと対象をとらえる目線の角度は何も知らぬ原始では到底到達できるものではなく、私たちがアフリカに見る原始が実は豊饒なコンテンツが凝縮されたものであることがわかるだろう。それはムパタの絵が私たちにもたらす最大の意識改革のような気がしてならない。
ムパタは幸福に生まれたわけでもなく、幸福に死んだわけでもない。サバンナがいつも彼にやさしかったわけでもなく、都市が彼を癒してくれたこともなかっただろう。しかし、ムパタの作品は大都市に生まれて、いわゆる成功を手にしたバスキアの作品よりもはるかに明るく、喜びに満ちている。所謂人間の文明を進化させたといわれる近代において、私たちは芸術という名のもとに不幸しか感じない物質文明を感性の中に生じさせたのかもしれない。バスキアたちが去って、アートは再び美術館や画廊に戻り、造形表現の世界は現代美術という概念的背景もない言葉でいたずらに過去との幸福な関係を断ち切ってしまうような状況を呈している。中途半端な知的スノビズムに陥るよりずっと幸せだった芸術の在り方を不幸だったムパタの作品は見せてくれていると思う。
伊東順二(美術評論家)
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